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Audibleを試してみた感想など
Audibleを契約した。目がつかれたからだ。一日中、コンピューターでレポートだのばっかりを書いているせいで、本を読むほどの視覚の体力が残らなくなってしまったのだ。
寝る前にラジオを聴く習慣がついてしまったことも関係している。FMラジオでJWaveやTokyoFMを聴いたり、それ以外を聴きたくなったらRadioGardenというサービスを使って、南米とかアフリカとかのラジオを聴いたりしている。
さいきん、それらの音声サービスの「軽さ」というかなんというか、そういうものに飽き飽きしてきたところがあった。とりあえず、日常の身近なほっこりエピソードをしゃべって、とりあえず軽妙な音楽をながす。
友だちがどうだった、恋人がどうした、なんとかがおいしい。さいきんはやりの音楽家があらわれて、最新曲が再生される。創作秘話について。今度のライブの日程。
もちろん、それらはすばらしい。むずかしいことは考えずにずっと聴いていられるし、自分では聞こうともしない音楽を聴くことができる。
ただ、ぼくはやっぱり、飽きてしまった。なんというか、もうちょっと掘り下げてほしいんだよなと思ってしまった。そういう日常具体なことばかりではなくて、たまには抽象的だったり壮大だったり、込み入った複雑なことについて頭をひねってみてもいいのではないかな、というふうに。
YouTubeは、あまりよくなかった。対談系や解説系の動画はいっぱいあるけれど、それらはどうしてもセンセーショナルだ。アルゴリズム的にどんどん流れてくる動画たちは、画面を長く見せようと強く主張してくる。
こういう経緯から、朗読サービスAudibleを検討してみたというわけだ。
体験版を契約して最初にぼくが検索をかけたのは、サン=テグジュペリの「人間の大地」である。飛行士であったジュペリ本人の生々しい体験談と工学的な緻密さ、大自然に対する畏怖に満ちた、詩情あふれる傑作である。枕元で、寒風さらされる夜間飛行の操縦席を夢想しながらねむるのは、きっとすばらしいだろう。
ところが、「人間の大地」はヒットしなかった。存在しないらしい。
次に検索をかけたのは、夢野久作の「犬神博士」だった。まちはずれのバラックに住む謎の人物「犬神博士」が、旅芸人だった幼少期の破天荒な思い出を語る、人情とユーモアに満ちた問題作。
そうしたら、これもヒットしなかった。
けっきょくそのあと、いろんなものを検索してはヒットしないを繰り返した。どうやら、ぼくが読みたいものだけピンポイントでないみたいだ。
どうしようかと思ったぼくは、「じゃあたまには、ふだん読まないような本でも聴いてみようかな」と思って、Audibleのトップに載っていた「成瀬は天下をとりにいく」という本を再生してみた。
ところがこの本は、ぼくにはちょっと合わなかったようだ。なんというか、テンポが早すぎたのだ。
「なるせはペンをもった」「なるせはマスクをつけた」「ローカルテレビの放送が始まった」「わたしはソーシャルディスタンスをとった」「わたしはソファにすわった」「わたしはソファにすわって腰掛けた」「母は、『なるせちゃんって〇〇だよね』と言った」「『〇〇だよ』と昔の友だちは口々に行ったけれど、わたしは『でも、XXだからさ』と言った。それに、なるせはXXだから」
みたいに、次々と情報がおしよせてくる。ぼくは途中でおいかけられなくなってしまって、やむなく再生を止めてしまった。
けっきょく、谷崎潤一郎の「細雪」でおちついた。おだやかな関西弁まじりの朗読をきくと、あのかたくるしそうな文章が、とたんにドラマティックになった。
しばらくきいて、今けっこうおもしろくなってきたところだ。体験版がおわるまで、細雪を「読もう」と思う。